カスハラ対策と顧客第一主義は相反しない


カスハラ対策と顧客第一主義は相反しない

 本業の繁忙期を何とか乗り切って、半沢直樹ブルーレイボックス(2012年版および2020年版、取得価格およそ6万円)を久しぶりに一気見した。

 本作でたびたび出てくるキーワードに「顧客第一主義」がある。中野渡頭取が掲げる東京第一銀行のスローガンだが、今になってこの言葉の深みがようやくわかるようになってきた。

 「顧客第一主義」とか「お客様第一」という言葉はサービス従事者を苦しめる呪いの言葉でもあるのだが、客のために働くというのは必ずしも客のわがままに応じるということではない。客のわがままに付き合わされるのにうんざりし、客のために働くことをやめてしまう従業者が生じる事態は誰のためにもならない。

 客のためにならないと考えられるときは要求を拒むことも顧客第一の考えに基づくならおかしなことではない。客のために厳しいことを言う場面が同作ではしばしば登場する。銀行は金を貸すのが商売だが、客のためを思ってあえて融資しないということもある(貸さぬも親切)。半沢は顧客側にとって非常に厳しいことを言う担当者であるが、自社のためにベストを尽くそうとしてくれていることがわかるから、担当者を変えてくれということにはならないのではないか。

 カスハラ防止条例が一部自治体で施行されカスハラ対策がホットになっている。来年にはカスハラ対策義務が盛り込まれた労働施策総合推進法が施行される見通しだ。言葉の暴力など犯罪に該当しうるものは別として、カスハラ対策で難しいのがまっとうな苦情なのかカスハラとして取り扱うべき不当な苦情なのか線引きが難しいということではないか。事業主としてはお客の言うことはもっともだと思っても、従業員がカスハラだあいつを出禁にしろなどと騒ぐという事案も出てくるだろう。

 そういうところで立ち返るべきは、上記の「顧客第一」という考え方だろう。その苦情にどのように応じるのがその顧客のためになるか、またはほかの顧客のためになるかという観点で検討することが一つの解決法になるのではないか。

 なお、客のわがままに応じることが客のためになるという考えを持っている経営者がいるならば、それを改める必要があることは言うまでもないことである。

(2025.4.13) ホームページに戻る


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